フレンケル体操とは
フレンケル体操は、スイスの医師フレンケルが考案した、運動失調に対する代表的なリハビリ体操です。目や指先で自分の手足の位置を確認しながらゆっくり動かすことで、体の位置感覚のずれを視覚によって補い(代償し)、正確な関節の動かし方を脳に再学習させることを目的としています。
一般的には、一つの関節だけを使う単純な動きから始めて徐々に複数の関節を同時に使う複雑な動きへ、また、寝た姿勢から座った姿勢、立った姿勢へと段階を踏んで難易度を上げていく進め方がとられます。最初は目で見ながら(視覚代償)行い、状態に応じて目を閉じて行う段階へ進めることもあります。
ただし、フレンケル体操には向き不向きがあります。本来は、手足の位置を感じ取る感覚(深部感覚)が障害されているタイプの運動失調に対して考案されたものです。小脳性の運動失調が中等度以上に進行している場合は効果が乏しいとされ、また眼球の揺れ(眼振)や物が二重に見える症状(複視)がある場合は、視覚による代償がうまく働かないため効果が出にくいことが分かっています。「誰にでも効く体操」ではなく、向き不向きのある方法だとご理解ください。
ご自身に適しているかどうか、どの程度の負荷で行うべきかは、理学療法士・作業療法士や主治医に相談のうえで判断してください。
バランス訓練
バランス訓練は、静止した姿勢を保つ「静的バランス訓練」と、重心を動かしながら行う「動的バランス訓練」に分かれます。静的な訓練には、四つ這いの姿勢での片手や片足の挙上保持、片膝立ちや両足をそろえた立位、片足立ちなどがあります。動的な訓練には、立った姿勢や膝立ちの姿勢での重心移動、膝歩き、段差や凹凸のある場所での歩行、階段の昇り降りなどが含まれます。
バランスボールやバランスクッション、バランスパッドといった器具を使った訓練が行われることもあります。こうした器具を使う際は、転倒を防ぐために手すりにつかまるか、介助者による見守りをつけることが原則とされています。ご自宅で器具を使う場合も、見守りのある状態で、安全な環境で行ってください。
難易度は、支持している面を広くした状態から狭く、両足から片足へ、目を開けた状態から閉じた状態へ、というように少しずつ段階を上げていくのが一般的な考え方です。ご自身の今の状態にどの段階が合っているかは、専門職の評価を受けることをおすすめします。
歩行訓練
歩行訓練は、平行棒の中や、壁・手すりのそばなど、安全に体を支えられる場所から始めるのが基本です。姿勢や重心移動の感覚を意識しながらゆっくり大きく歩く練習や、床の目印をまたぐ練習、一定のリズムに合わせて歩く練習などが行われます。歩幅が広がりすぎてしまう「ワイドベース歩行」に対しては、足首の使い方を再学習する訓練が行われることもあります。
杖については、注意すべき点があります。脊髄小脳変性症では手や腕にも運動失調が及ぶことが多く、一般的なT字杖は「杖を突く位置自体が不正確になり、かえって転倒の危険を高める」場合があるとされ、あまり推奨されないことがあります。両側で使うロフストランド杖や、四脚歩行器・シルバーカーが選ばれることも多く、体の揺れが強い場合には車輪に重りをつける工夫が有効とされています。
医療機関によっては、天井から吊り下げるリフトなどの免荷装置を使い、転倒の危険をなくした状態で立位・歩行の練習を行ったり、装着型のロボット(ロボットスーツHAL等)を使って安全に歩行動作を繰り返し学習する方法が取り入れられたりすることもあります。HALを用いた反復訓練では、運動失調のスコアや歩行速度の有意な改善に加え、進行を2年以上遅らせたとする報告もあります。
どの練習方法が適しているか、どのくらいの強度で行うべきかは、理学療法士や主治医とご相談ください。
重錘を使う訓練とその理由
運動失調のある方の訓練では、手首や足首に重り(重錘)をつけて行う方法が使われることがあります。これは、重さを加えることで筋肉や関節からの感覚情報を強め、体の揺れ(測定障害や企図振戦)を一時的に抑え、関節の動きをコントロールしやすくするという考え方に基づいています。
重さの目安としては、手首で200〜400g程度、足首で300〜600g程度とされていますが、これはあくまで一般的な目安です。適切な重さは筋力や年齢、症状の程度によって一人ひとり異なり、重すぎるとかえって疲労感を強めるだけになってしまいます。個別に最適な重さを見極める必要があるため、自己判断で重りをつけて訓練することは避け、専門職に相談してください。
また、重錘の効果について、資料では「長期的に継続する効果ではなく、一時的な効果(即時効果・代償的効果)であることが殆どである」と明記されています。重りをつけている間は動きやすくなっても、それによって運動失調そのものが根本的に改善するわけではない、ということは理解しておいていただきたい点です。